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映画・美術・イタリア旅行の紀行文の紹介です。

『2018年映画』「負け犬の美学」(仏映画、監督.脚本サミュエル.ジュイ主演マチュー・カソヴィッツ

『2018年映画』「負け犬の美学」(仏映画。監督/脚本サミュエル・ジュイ。
                         音楽/母マリオンオリヴィア・メリラティ。   10/16
                       出演スティーブ(マチュー・カソヴィッツ)
                         チャンピオン・タレク(ソレイマヌ・ムバイエWBA世界王者
                        娘オロール(ビリー・ブレイン)母マリオン(オリヴィア)
 
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舞台はフランス。49戦13勝3分33敗。主人公スティーブの戦績である。彼はこれ程多くの敗北を重ねながら、なぜボクシングを諦めないのだろうか?冴えない戦績ながらボクシングにしがみついている中年ボクサーが映画の主人公だ。今日も敗戦、会場の外で漠然としていると、会場のスタッフに顔すら覚えてもらえない彼はあわや締め出される始末。勝ったのは3年前だという。アメリカ映画の「ロッキー」のような成功物語ではない、「負け犬の美学」が展開されるのだ。私はこんなフランス映画が好きだ。
 アメリカ映画と違って、描かれるのはリングの戦いではない。それに附随するものだ。トレーニング、試合の前後、ボクサーの孤独、無謀さ、心情、家族との暮らし、毎朝どのように起きるか、また何のために戦うのか、である。
 殴られっぱなしの体はボロボロ。妻からは50戦したら引退をと迫られている。娘から試合を見に行きたいとせがまれても、いいところを見せられない彼はダメだと言う。生活は苦しく、
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美容師の妻の稼ぎと自身のレストランのアルバイト代でやっと家計を支える日々。そんな彼の楽しみは、愛娘のピアノを弾く姿を見ること。だが、ピアノのレッスン代もろくに払えず、各請求書が溜まっているというのに、娘のパリ高等音楽院へ入学したいという夢を叶えるために、ピアノを買うことを思っている主人公スティーブ。
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 彼はピアノ購入のために、誰もが敬遠する*1欧州チャンピオンの(チャンピオン=タレクを演じるのは欧州世界チャンピオンのソレイマヌだ。*2スパーリングパートナー(実践形式の練習相手。チャンピオンが選手権のためのハードな練習の相手。試合を控えて闘争心がみなぎり荒れ狂った男を一か月の間、毎日相手をしなければならない)
に志願するのだった。パートナーの仲間は、皆輝かしい戦績を誇り自信に溢れた若者たち。何とかパートナーを務めたスティーブだが、ポンコツ呼ばわりされ、クビになった。娘のために黙って引き下がれない彼は、翌朝、薄暗い中ホテルの前でチャンプを待ち伏せ、ロードワークについて行った。ついてゆくのが瀬一杯。「サンドバッグなら間に合っている」「俺にもあんたに無いものがある」と応酬。KO負けの恐怖を乗り越えた経験とその重要性を説くスティーブにチャンプも折れ、クビは免れる。とはいえ、スパーリング中はボコボコにされるスティーブ。パートナーの仲間たちからも同様に、、、
 
 陣営の作戦会議。戦法変更を唱えるトレーナーにおずおずと異議を出すスティーブだが、負け犬は黙っていろと相手にされない。それでもめげずにチャンプの部屋に行って、自分が考えている秘策を提案する。チャンプの公開練習の日、そこに念願だった父のボクシング姿を楽しみにやってきた娘オロールの姿が。チャンプは2番目のスパーリングにスティーブを指名、観客に彼を紹介、「勇敢ないいボクサーだ」だが、「パンチは当たらないからヘッドギアは不要」と煽(あお)る。観客ドッ!と笑う。チャンプに面白いようにボコボコにされるスティーブ。ヤジを飛ばす観客。いたたまれなくなったオロールはその場を飛び出した。
 その後も普段通りにスパーリングの日々は進み、本番が近づいた或る日チャンプが彼に、意外な提案をする。「前座試合に出ないか」と。奇しくもスティーブの50試合目、引退を約束した最後の試合となる。妻のマリオンが見守る中、スティーブの最終戦が始まる――。
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 映画の中で、主人公のスティーブの目の腫れが尋常でなかった。演技としてのボクシング(振付)のシーンではなく、本当の殴り合いをやっていたのだ。メイクなんかであんな傷ができるか!劇中での50試合目は、主人公にとって引退試合なのだ。自分に才能がないことは分かっている。が、ボクシングが好きだ。年齢の加速は肉体の退化。わかっている。もう限界だということを。引き際は大切だ。勝負よりもどういう戦いをするかだ。我がボクシング人生を賭けた勢一杯の戦いをしょう。これによって引退後の人生がどのようなものになるか?結果が勝ち負けというより、俺はどのように頑張ったかという自己肯定感を得られるかということだ。

 見ていて涙が出てきた。リングは二人の男の戦いだ。白熱したボクシングの勢一杯の戦いが続く。最後の引退試合は、一度も栄光を見なかったボクサーたちへのオマージュなのだ。スターの影に日陰のボクサーがいる。彼らがいなければプロボクシング界は存在しないのだ。彼らこそリング上で得られる栄光の絶頂にいるのだ。絶頂にいることへの賛歌ともいうべきものだ。
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 娘オロールを演じたビリー・ブレインの無垢の眼差しと笑顔が可愛い。彼女が弾くショパンのノクターン2番は、映画の初めの方で弾いたのよりいいが、父のボクシングと同じレベルかなー、、、



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  1. 2018/10/16(火) 21:19:21|
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