私の見た映画・美術・

映画・美術・イタリア旅行の紀行文の紹介です。

『2017年映画』「エリザのために」(ルーマニア映画、監督クリスティアン・ムンジウ出演A・ティティエニ

『2017年映画』「エリザのために」(ルーマニア映画、監督クリスティアン・ムンジウ2/20
                         出演アドリアン・ティティエニ、マリア・ドラグシ
                                2016年カンヌ映画祭監督賞

DSC_0084.jpg

ルーマニアの小さな都市で暮らす医師ロメオ(A・ティティエニ)は、妻とは家庭内離婚状態でシングルマザーの愛人がいる。18歳の娘エリザ(マリア・ドラグシ)を愛していて、英国の名門ケンブリッジ大学に入学させることが目下の望みなのだ。その為ならば何でもやるという。
娘は登校途中暴漢に襲われ強姦されそうになる。幸い未遂で終わったがそのショックで留学のための最終試験に影響を及ぼしそうだ。父親ロメオは娘の留学を勝ち取るため、友人の警察署長・副市長・試験監督官とツテを頼り奔走した。その代りロメオは見返りにある条件を飲むのだった。しかし、娘は父親の裏工作に反発するばかり。そんな中、ロメオに検察の手が迫ろうとしていた、、、
DSC_0085.jpg

映画は中年の医師ロメオの、娘を守るための犯した間違い、必死な行動、苦悩とためらい、取り繕う嘘、後悔の涙を描いてゆく。主人公の哀しさ、滑稽さも同情をさそうが、何か違うという感情が沸き起こってくる。

ロメオは何故娘を名門ケンブリッジに留学させたいか?気になるのは映画のシーンに何回か出て来る「ルーマニア革命の挫折」という台詞だ。「自分たちのようにはなって欲しくない」。1989年のチャウシェスク独裁政権の打倒とその後のルーマニア民主化運動の挫折だ。映画の主人公は91年亡命先から帰国。(恐らく民主化運動に参加。映画では伏せられている)民主化運動の挫折が共産主義時代以上の絶望的な汚職と不正がはびこる社会になってしまった。「娘を英国留学に」とは自己の立つルーマニアの否定であり、ここに夢も希望もないということだ。という否定形の強烈さが作品のリアリティーである。

例えば、チャウシェスク時代の「国力は人口なり」の人口増加政策で多くの子どもたちを増加させる政策を取った。独裁政治破綻後、満足に食料を与えられなかった子どもたちは行き場を失って町に溢れた。首都ブカレストの下水道の中で暮らす彼らを“マンホール・チルドレン”と呼ばれ、麻薬・HIV感染・結核の温床となり、大人になった彼らが子どもを生み育てることで今なおルーマニアの暗い闇を作っているという。
地下の暗い闇と反対に地上の社会では共産主義時代の金とコネと不正が横行しているのだという。

(K ・ムンジウ監督)
ムンジウ監督

クリスティアン・ムンジウ監督はルーマニアの現実を頑固なまでのリアリズムで描いている。希望や出口は「無い」と言わんばかりだ。娘のために必死に奔走する父親の姿を、娘可愛さに止むを得ない行為だ。それを止むを得ないことだと共感する心情はやはりおかしい。しかし、ムンジウ監督はあえて批判を承知の上で医師ロメオの必死さを描いているのではないか?
チャウシェスク独裁政権打倒後の民主化運動に参加した医師ロメオは、挫折後の今、娘の留学しか望みを託すものがない父親になってしまった。ロメオの裏工作、取り繕う嘘、後悔とためらい、流す涙に、反面教師的人間像として描いたと言ったら言い過ぎだろうか?ロメオの行動にルーマニアの縮図が逆に照査される。
正攻法で留学を掴んだ娘エリザを囲んだ記念写真に、10代の青年たちの輝ける顔に、明日のルーマニアの希望を暗示したのではないか。

*クリスティアン・ムンジウ(ルーマニアの映画監督。1968年東部のヤシ出身。

2007年、「4ヶ月、3週と2日」でカンヌ映画祭でパルムドール(監督賞に輝く)
DSC_0088.jpg

2013年、「汚れなき祈り」 カンヌ映画祭(女優賞・脚本賞)
DSC_0087_1.jpg


2016年、「エリザのために」カンヌ映画祭(監督・脚本賞)




スポンサーサイト
  1. 2017/02/20(月) 18:12:08|
  2. 『2017年映画』
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<『2017年映画』「沈黙ーそのⅡ、殉教と転び 」  2/25 | ホーム | 『2017年映画』 「スノーデン」(監オリバー・ストン出ジョセフ・ゴードン・レヴィット) 2/14>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://sinema652.blog.fc2.com/tb.php/424-f62ea3dc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)