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『美術/音楽/舞台/読書』「詩歌と戦争ーその②」  12/4

『美術/音楽/舞台/読書』「詩歌と戦争その②=戦後の出発」12/4

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優れた社会思想史の研究者・中野敏男さんの講演を聞き、先生の著作「詩歌と戦争」(NHKブックス)を手引きにブログに書きました。
私がこの著作に引き込まれたのは、「震災」(関東大震災)から「総力戦=15年戦争」へ歴史のダイナミズムが激動してゆく過程を、北原白秋の抒情歌(童謡・民謡)と愛唱する民衆の心情を見事に分析した鮮やかさでした。
「総力戦」はナチズムと違った形の「ファシズム」でした。上からの統合・制度化と下からの民衆の自発的・組織的な「翼賛」に支えられていた。中野さん指摘の「自警団の経験」、「新民謡運動」、「校歌・社歌ブーム」「東京音頭」の熱狂で進んだ「町内会・隣組」などが下から「日本ファシズム」を支えたのです、、、ともかく、日本は敗れ、戦争は終わった。戦後の出発点の在り方が問題点を残し、現代にまで引きずっている。戦争をどう見るか、戦争責任をどう追求するか、どういう戦後社会を築くか、幾つかの点を簡単に触れておきたい。

「ファシズム」は国民尽く<翼賛>体制に組み込んでゆく。言語の表現で積極的に愛国心を煽るものはもとより、直接愛国や戦争を歌っていなくても、人々の情感に訴え日本の自然への繊細な共感を掻き立てるものは、國への心情的な一体感を形成する不可分な構成要件とされた!つまり戦時下において表現は総て<翼賛>に手を貸すことだと言われた。最近の研究では文化領域すべてに亘って「総動員」の戦争協力体制が作られていたことがわかっているそうです。

敗戦後の日本に最初に登場した民衆歌謡は「リンゴの唄」45年です。
(詞サトウ・ハチロー、曲万城目正、唄並木路子・霧島曻)
これは流行りました。3百万余の死者を出したこの戦争は人々の心に癒しがたい深い傷を残した。明るい「リンゴの唄」は人々の心を捉えた。戦後直後は「癒しの唄」が流行った。中野さんの鋭いところは戦後流行ったたくさんの「癒しの抒情」に、戦争の記憶を都合良く色付けていくような動きがあったのではないか?と疑念の目で見たことです。

「里の秋」45年(詞斎藤信夫、曲海沼實、唄川田正子)
① しずかな/しずかな/里の秋  おせどに/木の実の/落ちる夜は
ああ /かあさんと/ ただ二人  栗の実/煮てます/ いろりばた
➁さよなら さよなら 椰子の島/ お舟に ゆられて 帰られる
ああ とうさんよ御無事でと / 栗の実 煮てます いろりばた

「里の秋」は当時外地からの「引揚げ」(復員)で賑わった民衆の心情に、大ヒット!ところがこの歌は同じ斎藤信夫の41年12月の「星月夜」という原作品があって、3番と4番に

③きれいな /きれいな/椰子の島/  しっかり/護って/くださいと
ああ/父さんの/ご武運を/  今夜も/ひとりで/祈ります
④大きく /大きく/なったなら/  兵隊さんだよ/うれしいな
ねえ/ 母さんよ/ 僕だって/  必ず/ お国を/ 護ります

これは41年作の戦争翼賛の歌だ。再構成して戦後の「平和の歌」に直している。このように戦争中の「翼賛詩人」が戦争責任を棚上げして「平和詩人」として大手を振って歩いていたのが実情だ。「戦後」たくさん出てきた歌の多くがそうだった。「戦後の出発」の時、「戦争責任」をきちんと追及して来なかったツケが現代に及んでいる。外国から「歴史認識」の無さを追求されている。これはイデオロギーの問題ではない。一独立国として当然求められることだ。それが「一億総ざんげ」と責任を曖昧なものにすり替えられてしまったのだ。

中野さんの優れた問題意識は二つの「震災」-東日本大震災と関東大震災の「震災後」を分析して、何が見えてくるか?「関東大震災」は「総力戦の15年戦争」に連鎖したが、「東日本大震災」は何につながってゆくか?だった。1945年の戦後「戦争責任」の追求の曖昧さが、日本人の歴史認識の希薄さを生んだように、「東日本大震災」の「震災後」の今、何がおかしなものを作り出しているだろうか?

わが国は3百万余の人命を奪いアジアの国々を蹂躙した戦争の責任を誰も取ろうとはしなかった。国際社会では行動には責任が伴い、罪には謝罪と償いを要求される。日本軍「慰安婦」を始めとして、過去の植民地支配や戦争の加害に関わる責任と被害の償いが未解決である。ところが最近の情勢は過去の歴史事実を否定しようとする動きが顕著である。戦後70年軍隊を持たず戦争しなかった日本が、海外において戦争可能な憲法違反の法律を持った。多くの未解決な問題を抱えて、テロと極右のファシズムの時代を我々は迎えようとしている。
 






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  1. 2016/12/04(日) 22:40:04|
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