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『美術/音楽/舞台/読書』「アゴタ・クリストフの3部作についてー「悪童日記」他)10/25

『美術/音楽/舞台/読書』「アゴタ・クリストフ3部作についてー「悪童日記」「ふたりの証拠」「第3の嘘」」
                             堀茂樹訳/ハンガリー出身/フランス語)10/25

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映画「悪童日記」は衝撃的だった。第2次大戦から戦後にかけての動乱期のハンガリー。
双子の男の子を巡る残酷非情な物語。親元から離れて首都から田舎の祖母の元に疎開。厳しい労働、村での大人たちの貪欲・搾取・欺瞞・暴行・戦火の脅威を次々と体験していく。それを、主観や感情過多の文章を排したシンプルな削ぎ落した文体で綴った。悲惨さを感じさせないで残虐が淡々と語られていく、不思議な小説。

お婆さん
「魔女」と言われ、夫殺しと噂されている祖母の下で、「牝犬の子」と呼ばれた双子の闘いが始まる。
「働かざる者食うべからず」で畑や家畜の世話をしなければ食わせてもらえない、いや家の中に置いて貰えない。10歳の子どもには厳しい体験だ。双子はお婆ちゃんからよく打(ぶ)たれた。他の人から平手打ちや足蹴りを喰(く)らった。初めよく泣いた。「僕らは体を鍛えることを決意する。」裸になってベルトで打ち合う。「痛くないぞ!」自身の腕、胸にナイフを突き立て、「平気だ!」

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一時が万事だ。こうして、弱虫克服の精神の鍛練。空腹に耐える訓練=断食。盲目・聾唖の練習、残酷に耐える訓練。普通へこたれるところだが、双子は困難にぶつかると「自虐的」行為というか逆に立ち向かう態度で対処し克服していく。
作品では父から貰った大きなノートに「あるがままの事実、見たこと、聞いたこと、実行したこと」だけを、秘密のノートに書くことが使命(ミッション)なのだ。学校には行かず、祖母の家にあった唯一つの本、聖書で文字を独学で学習した。

文章は淡々としているが双子に降りかかる残虐は決して軽いものではない。人間は想像を超えた残虐を受けると残虐性を忘れようと正反対のことをすると、確かドストエフスキーの文学にあったかな? 心理学の分析で何というのか? 心の底に残るトラウマに襲われた時の主人公の対処の仕方がこの作品の特長である。

作者<アゴタ・クリストフ>は1935年ハンガリー生まれの女性作家である。1956年のハンガリー動乱の時に亡命してスイスに在住。1986年フランス語で書かれた「悪童日記」によって一躍脚光を浴びる。続いて「ふたりの証拠」(88)「第3の嘘」(91)と3部作を完成させた。2011年7月27日没。

作者が少女時代、第2次大戦が勃発、ハンガリーはナチのドイツに占領される。ユダヤ人や政治犯などが強制収容所に入れられた。親たちが空襲・飢餓にさらされ、密告に怯(おび)えていた時代、子どもたちは逆にほっとかれ、比較的自由な一面もあった。1945年終戦、ソ連の占領。ヒットラーに代わってスタリーンが来た。進駐のソ連軍はハンガリーで残虐行為を行い、女性の半数以上が強姦されたという。一党独裁のスタリーン主義の教条が押し付けられ、自由と家族を失う。1956年、ソ連でスタリーン批判が出ると、ハンガリーでも自由と民主化の要求の運動が起きる。ハンガリー動乱である。ソ連の軍事介入で市民2万人が殺され、政治指導者のナジを始めとする幹部が多数処刑された。20万人が国外に亡命した。
(ハンガリーもポーランドも大国に挟まった小国の悲劇というか悲惨と動乱の半世紀である。救いがない。こういう時代を人々は如何に生きるか、この作品のテーマである。)

作者の少女・青春時代は以上見てきたような圧政と動乱の時代だった。しかも、彼女は動乱の1956年活動家の夫と一緒に亡命している。作者が語っているところによると、少女時代、大好きな兄と「森や野原や街路で自由奔放に遊びまわった」。詩で歌われる「青春の王国」「夢のメリーゴーランド」だった。圧政がそれをズタズタにした。作品の3部作は「夢のメリーゴーランド」の再現・再構築ではないか?彼女は表現世界で少年に変身し、兄や他の兄弟たちのイメージを混ぜて、双子のクラウスとリュカを作りあげた。孤児の双子の兄弟が戦時のハンガリーを生きるとどういうことを体験するか?
双子の魂はクリストフのそれである。彼女が見たハンガリーの過酷な現実であり、非情な目である。

日記には、ハンガリーの半世紀の非情な現実が炙(あぶ)り出される。
戦争による爆撃死、安楽死、性行為、性倒錯、近親相姦、貧困、飢餓、過酷な労働、虐(いじ)め、暴力、憎悪、エゴイズム、妬(ねた)み、ユダヤ人への差別と迫害、強制収容所、ジェノサイド、進駐軍による強姦、性的トラウマ、教会の實相、

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3部作の
「悪童日記」(1986)  田舎の祖母に預けられた双子が生き延びる為に何をしたか!
「ふたりの証拠」(88)   クラウスは地雷原の国境を越えて他国に行ったが、残されたリュカはどうしたか?やさしいとこ   ろがあるリュカは隣家の貧しい障害者の母娘を助ける。兎唇の娘は村の性的慰みの対象、進駐してきたソ連軍の輪姦  によって殺される。リュカは赤ん坊を川に沈めようとした少女を救い、身体障害と行動障害の子どもを育てることに人   生の生きがいを見だそうとするが、、、
「第3の嘘」(91) <物語の発端>。「双子の母は夫の不倫を怒り、衝撃的に夫を射殺しその流れ玉がリュカの脊柱に当   たる。母は精神病院へ、リュカはリハビリセンターへ、クラウスは父の愛人アントニアに育てられる。アントニアは娘サラ  を生む。少女に成長したサラを愛するクラウス。(近親愛)クラウスが生涯で愛した唯一の女性。アントニアによって引き  裂かれる。新聞社の植字工の見習いとなり、植字工として大成する。精神病院から母を引き取る。リュカの事ばかり    言ってクラウスに冷たい態度をとる。リュカから40年振りに便りがあった。クラウスは何故か冷たい。40年振りの再会
  なのに、、、

「第3の嘘」は第1部の「悪童日記」と違うが、どちらが真実なのか? 
  真実はどうなのか?物語を錯綜とさせて読者を迷宮に引きずり込むのが作者の狙いなのか?元々、リュカが一人で暮  らしながら、双子の兄弟が存在するかのように日記に書いたかも知れない。3部作のリアリズム的な統一性はない。し  かし、「過酷な状況で生きるとはどういうことか?」。「ハンガリーの戦中・戦後・動乱という非情で過酷な状況を少年は   どうやって生きるか、或いは生きたか」。「当時の非情な現実の情景」が見事に描かれていて、作品のテーマ・主張は   貫かれている。それを強烈に表現することこそ作者の狙いではないのか?



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  1. 2014/10/25(土) 21:22:08|
  2. 美術/ 音楽/舞台/読書/文学
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