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映画・美術・イタリア旅行の紀行文の紹介です。

『2014年映画』「あなたを抱きしめる日まで」(主演、ジュディ・デンチ。スティーヴ・クーガン)3/21

『2014年映画』「あなたを抱きしめる日まで」(原作マーティン・シックススミス。監督スティーヴン・フリアーズ
          出演ジュディ・デンチ。スティーヴ・クーガン)3/21

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50年前に生き別れた息子を探す旅に出た主婦フィロミナ。同行するのはBBCの元特派員
で政府の広報担当をクビになったマーティン。50年前に生き別れた息子は何処でどうして
いるのか?息子を探し出せるか? 2人での息子探しの旅が始まる。映画は単なる息子探し
の旅に止まらない思いがけない展開をしてゆく。
演じるは英国の大女優ジュディ・デンチ。脚本・製作も務めた共演者のスティーヴ・クーガ
ンの2人。

かつて英国のBBCの特派員から労働党政権の広報官を務めたマーティン・シックススミス
(スティーヴ・ク-ガン)、事件に巻き込まれて失職、再起をかけてバカにしていた母子物
の取材を始める。アイルランド出身の主婦フィロミナ(ジュディ・デンチ)が10代の時、
未婚で妊娠。親からは堕落した娘としてマグダレン修道院に預けられ、カトリック教会は中
絶を認めず堕落した娘として修道院で分娩。同じような境遇の娘と共に母子の保護と引き
換えに奴隷労働をさせられていた。息子が3歳の時強制的に養子に出されてその後50年間
忘れたことがなかった。その息子を探す旅である。
2009年に出版されベストセラーになったノンフクィクション「フィロミナの物語」(マーテ
ィン・シックススミス著)が原作である。

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* 「マグダレン修道院」(「マグダレンの祈り」<2002>という映画で告発している)改心したマグダラのマリアから名付けた。孤児やレイプの被害者、婚姻外の子供を持った女性を「堕落した者」と名付け、修道院に一生閉じ込め洗濯部屋(汚れたものを白くする)で働かせた。
アイルランドでは1996年まであった。中世ではなく現代20世紀の話だ。アイルランド政府が人権侵害・国辱だとして謝罪した。

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2人で修道院を訪ねると、養子の書類は火事で焼失のためわからない、との返事。しかし何
か雰囲気が怪しい。マーティンが夜地元のバブで飲んでいると「火事はない、嘘だ」「書類
を燃やしていた」という。証拠を隠滅していたのだった。何で燃やしたのか?
驚くべきことに息子は米国の金持ちに高額で売られていた。人身売買で修道院の生計を立
てていたことがわかる。

映画はフィロミナとマーティンが息子を探し追求してゆく「推理もの」の形式をとる。
マーティンが人脈を使って調べると息子は米国に行ったことがわかる。2人は米国に渡る。

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フィロミナは初めて飛行機に乗る。「珍道中」のコミカルな会話やギャグ。フィロミナは思
ったことを何でも屈託なく喋ってマーティンと初めはチグハグ。しかし、だんだんとインテ
リの頭の固いマーティンと打ち解けていく。

シリアスな内容なのにコミカルなギャグや下ネタの言葉が飛び出すフィロミナの台詞。映
画の基調の見事な転換である。シリアスなテーマを楽しく勇気を与える映画を作ろうとい
う狙い。実はスティーヴ・クーガンは英国の有名なコメディアンである。彼は作品の脚本に
も参加、台詞をコミカルなものに作り替えた。(コメディアン特有のクサイ芝居は排除しな
がらも)相手役は天下のデンチ様! フィロミナはテレビとロマンス小説好きの可愛らし
い庶民の田舎のお婆さんという設定。天真爛漫に喋りまくる。どんな苦しいことがあっても
笑いを忘れない人間だ。
一方マーティンは名門校出身の庶民を見下したところがあった。はじめ2人はチグハグ珍
道中を重ねる中で、だんだん打ち解けてゆき彼のスノップが正されてゆく。ジャナーリスト
として挫折していた彼がデンチお婆さんに癒されて人間として再生してゆく物語である。

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マーティンがさらに調べていくと息子はマイケル・ヘスという人でレーガン政権の法律顧
問だったことがわかる。優秀で大学―弁護士―共和党の法律顧問と順調に歩み、BBC特派
員時代のマーティンに会っていた。残念ながら1995年40歳でマイケルは亡くなっている。
息子の死を知ったフィロミナは泣き崩れ、マーティンが抱きかかえる。
フィロミナが「子供はいないの?」と聞くと、「いない。彼はゲイだった。」「あなたの息子
はゲイでエイズに罹って亡くなっている。」死ぬまでエイズは秘密にしていたという。

* レーガン政権(共和党)はエイズに対して全く対策を取らないばかりか、薬の認可・研究もさせなかった。共和党を支えたキリスト教保守と言われる「福音派」(プロテスタント)が、「エイズはゲイに与えられた神の天罰だ」と信じて封印していたことが原因だとされる。
* 息子は生前、レーガン政権下で自分がエイズになりながら偏見のためにエイズと闘うことが出来なかった。母親である自分も偏見の犠牲になって子供が売られてしまった。親子2代キリスト教の厳しさや偏見に苦しめられた。しかし、彼女はそれでも信仰を捨てないのである。
* この映画はキリスト教の非道を攻撃糾弾するものではない。本人、息子親子二代にわたってキリスト教に迫害を受けてきたといえるが、フィロミナの信仰は揺るがないのである。修道院の当時の監督官の修道女が車椅子で生きていて、相変わらず”あなたの淫らな行為が問題なんですよ!と決めつけているのを、フィロミナはそういうあなたを赦すというのである。両者の人間的価値の違いが鮮明になる。

フィロミナは問う。
「私の息子マイケルはどういう人間だったか。息子はアイルランド人だということを知っていたか。私のことを知ろうとしたか。」それをぜひ知りたいと思う。
(このシーンは嗚咽をこらえて見ていた)

息子の友人に会いに行き、旅はなお続く。

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フィロミナの切実な問い、マイケルが故郷のアイルランドを知っていたか?母の私に会いたいと思っていたか?
マーティンがインターネットでマイケルの写真を見ていて思わぬ発見をする。マイケルがケルト族のハープの形のピン(アイルランドのシンボル)を胸に刺していた。(胸がいっぱいになって画面がかすんで見えた)母親が思うように、子供も思って恋焦がれていたのだ。

旅は出発点の故郷のアイルランドに帰ってきた。

* 監督スティーヴン・フリアーズ。(1941~ユダヤ系英国人の映画監督)
  ケンブリッジのトリニティ・カレッジで学ぶ。「ヘンダーソン夫人の贈り物」(2005)「クィーン」(2006)

* スティーヴ・クーガン(1965~アイルランド系英国人の多才な俳優、コメディアン、脚本家、製作者。)
 1995年コメディシリーズ(テレビ放送)「アランパートリッジ」で人気を博す。
 英国のトップクラスのコメディアンとして活躍。シリアスものにも手を広げている。
 本作では相棒のマーティン役、脚本、製作にも携わって彼の企画が映画を主導した。現代英国で最も期待
 されている俳優。

* ジュディ・デンチ(1934~アイルランド系英国人女優。)
 英国を代表する舞台・映画俳優、シェイクスピア俳優、舞台・ミュージカル俳優、007出演俳優(ボンドの上司M役)。6 回オスカーにノミネートされエリザベス1世役の「恋におちたシェイクスピア」アカデミー助演女優賞に輝いた。
 多くの舞台、映画に出演、我々は還暦を過ぎて出演した映画でしばしばお目にかかっている。

@山崎努「俳優ノート」から
「ジュディ・デンチは自分にとって特別の女優――演技者である。
20数年前、初めて彼女の演技を観たときの衝撃は今でも忘れられない。あれが無かったら自分は別のタイプの俳優になっていたかもしれないと思う(ロイヤル・シィエクスピア・カムパニー東京公演、「冬物語」のハーマイオニーが、着せられた不貞の罪が事実無根だと主張する長ぜりふを、ジュディはすさまじいスピードで一気に吐き出した。多分途中で息つぎをしているのだろうが、それが分からない。一気にエネルギーが噴出する。少なくとも七,八行は間違いなくノーブレスである。そのあと素早く腹に空気を入れるのだろうが、この息つぎが観客には全く分らない。だから長いせりふを一息で言い切ったように感じるのだ。舞台中央に微動だにせず立ちつくすジュディ・デンチの身体から、絶え間なく延々と溢れ出るエネルギー。鳥肌が立つような感動だった」

俳優が俳優を鳥肌が立つような感動を与える、とは凄いの一語に尽きる。


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  1. 2014/03/21(金) 21:37:22|
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