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私の見た映画・美術・

映画・美術・イタリア旅行の紀行文の紹介です。

『2019年映画』「希望の灯り」(ベルリン映画祭受賞。監督トーマス・ステューバー)5/3

『2019年映画』「希望の灯り」(ベルリン映画祭入賞。監督トーマス・ステューバー
                             出演フランツ・ロゴフスキ。サンドラ・ヒユラー。
                                ぺーター・クルト。   5/3
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 ドイツ映画はナチイズムに関連した作品が多いが、この作品は平凡な市民―落ちこぼれた階層の人々が主人公だ。東ドイツの大型スーパーマーケット、深夜の巨大倉庫が舞台だ。深夜、商品の補充や破棄をしている労働者たち。先輩労働者たちは悪態をつくがみんな人が良い。仕事が終わると、みんなが帰るのを責任者が一人一人握手して送り出す。(東独時代の残りか?)小さなチョコ・クッキーにろうそくを立てて誕生祝いをしている。クリスマスイヴには集まってイヴを祝う。これは日本にも米国にもない、ドイツしかも旧東ドイツだけに残っている職場の情景ではないか?ソ連支配下の旧東ドイツの悪評とは異なる一面だ。スーパーマーケットの深夜、倉庫管理専門の労働者たちのホットな庶民たちの話である。

映画のファーストシーンで「美しき青きドナウ」や「G線上のアリア」などの名曲を巧く使って、映画全体に名の知らない曲が流れていた。

こういう職場に首、腕、背中に刺青を入れた無口な若者クリスティアンが、試用期間付きで採用される。管理責任者ブルーノの監督を受けることになる。冷戦時代の東ドイツでトラックの運転手をしていたブルーノは労働者仲間から慕われている。ブルーノはクリスティアンにフォークリフトの動かし方とかいろいろと仕事を教える。無口の変わり者の彼もだんだん溶け込んでゆく。
DSC_2896.JPGマリオンとクリスティアン

クリスティアンは棚越しに見た年上の女性マリオンに恋する。店内の休憩所で二人はデートするようになる。だが、職場の中年女性から、マリオンは既婚者であること、傷つけないで欲しいと忠告される。落ち込む彼をブルーノは慰める。或る日、ブルーノから東ドイツ時代のスーパーについて聞かされる。ここはトラック輸送会社で今いる従業員はトラックの運転手だった。東ドイツが無くなって会社も無くなって、そのままスーパーマーケットで働き始めた。そこで、従業員みんなの独特な雰囲気が理解できた。
マリオンが仕事に来なくなり寂しいクリスティアン。ブルーノは見かねてマリオンの家庭―夫が暴力を振るうーのことを話す。クリスティアンは花束を持ってマリオンを訪ねる。入浴中のマリオンにビックリして逃げ出してしまう。
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或る日、ブルーノはクリスティアンを自宅に呼ぶ。ブルーノは妻を亡くし、一人暮らしだった。旧ドイツ時代を「楽しい時代」と呼び郷愁を語る。その郷愁に生きているようだ。クリスティアンを「お前いい奴だ。皆もそう思っている」と励ますのだった。やがてマリオンも仕事に復帰し工場も以前のような明るさを取り戻していった。ところがある日、ブルーノが自殺してしまう。

ブルーノの自殺の場面でやっとこの映画の秘密が分かった。映画の意味を。ブルーノはなぜ自殺したかの訳は明らかにされない。旧東ドイツ時代の郷愁をしきりに語る彼の姿が全てだ。妻も死に喪失に耐え切れなくなったのだろう。又、この工場のベテラン従業員全員がブルーノである。彼らは旧ドイツの崩壊によって喪失した。ベルリンの壁崩壊によって解放された人もいるけれど、人生を喪失した人もいる。この工場のベテラン従業員のように。喪失した人は残りの人生をどう生きるか。耐えて生きるしかないと映画は言っているかのようだ。喪失と悲哀、耐える人生、人生にはそう一面もあるよと言っている。
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マリオンはブルーノに教わったフォークリフトによって波の音を発生させ、憧れの波の音・海の音を聞く。(海から遠い内陸部の人にとって海は憧れである。)

ブルーノに代わって職場管理責任者となったクリスティアンは、今や一人前の従業員となって働いている。

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  1. 2019/05/03(金) 10:07:01|
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